パースの思想のつまみ食いからの脱却

過去の記事を読み返していると、これまでパースの思想に関することを、いろいろ取り上げて来たようだ。例えば、「タイプとトークン」、 「アイコン・インデックス・シンボルとレトリックとの対応」、「アブダクションについて 井崎正敏 (2008)「“考える”とはどういうことか?―思考・論理・倫理・レトリック」」、「進化論はなぜ哲学の問題になるのか」の感想2:メタファーとメトニミー」 など。

しかし、個々の項目を取り上げた当時は、パースの思想のことを考えていたつもりはなくて、それぞれのテーマに関することで引っかかって来て、たまたまパースの用語を使っていたようだ。だから、用語の相互の関連性を考えたこともなくて、言葉だけをつまみ食いして使ってきたことになる。

これは、必ずしも私だけのことではなくて、私がそういう言葉を学んだ出典の文章でも、それほど関連性を考えていたようには思えない。このことは、別に他人の理解の不十分さを指摘することではなくて、パースの用語が、そのような遊離した文脈でも、有効に利用されているということなのだろう。


それでも、パースの思想全体のことは気にはなっていた。先月末に、パースの記号論の理解の不十分さを痛感したこともあって、米盛 裕二「パースの記号学」やら、パース著作集2巻の「記号学」のところを読んだりしていた。


パースの思想がわかったなどとはもちろん思わないが、つまみ食いをして来た個々の用語が、相互につながっていること、そしてそのことがあまり触れられていないことに、ちょっと驚いている。例えば、「記号過程の3分法」ということで、3×3の表が掲げられているのは、いろいろなインターネットのサイトでも見られる(例えば、「エンジニアのための記号論入門:パースの記号論」など)。しかし、そこから派生した記号の10のクラスにまで立ち入って説明したものは少ない。もちろんパースの原著をたどれば載っているが、「パースの記号学」の本でも、「それを完全に理解しようと思う者も少ないであろう」と述べられていて、どちらかと言うと分類の袋小路に陥っているかのような記述がなされている。以下に、Wikipedia の英語版に載っていたものを掲げる。その訳語や分類の主要な解説については、このサイトに載っている。



3×3×3=27通りに組み合わせではなく、このように10個に派生することの意味を理解しないことには、パースのいう三項関係も、第一次性から第三次性までの意味も、理解出来ないだろうと思える。あるいは、別のクラスの記号で具体化されたり、legisign(or type) が sinsign (or token) をレプリカとしてもつことなども、タイプとトークンの区別を言うだけでは、わからないことだろう。


以上のことは、私の無知の告白みたいなものだが、それでもあえて書き留めておこうと思ったのは、このブログでこだわってきたことが、レトリックにおけるメトニミーとシネクドキの区別から始まって、インデックスとメトニミーとの隣接関係による対応や、またタイプとトークンの区別など、まさにパースのいう第二次性に関することだったのを自覚したからである。

この第一次性などのカテゴリーについて、米盛裕二の「パースの記号学」では以下のような定義を掲げている。

  • 第一次性:そのものが、積極的にそして他のいかなるものとも関係なしに、そのものであるようなものの在り方である。
  • 第二次性:そのものが、第二のものと関連し、しかし第三のものは考慮せずに、そのものであるような在り方である。
  • 第三次性:第二のものと第三のものを互いに関係づけることによって、そのものであるようなものの在り方である。

つまり、第二次性とは2つのものの関係であり、このブログで考えてきた隣接関係というのはまさに第二次性そのものだろう。私自身が隣接関係にこだわったのは、クラス的および類型的(typological)な発想に対して、個物的な発想を展開することであったが、第一次性をも加味するならば、分析的・還元的な見方に対して、ということもあったのだろう。


パースいう三項関係が、いろいろな場面・状況でどのくらい妥当性を持つものか、これから考えて行きたいと思っているが、これまで第二次性にこだわってきたことからすれば、どのような三項関係においても、現実の関係性に注目する限りは、第二次性として接点に持つことになり、そこから一次性や三次性が導かれるということではないか。メトニミーから、インデックスや、またトークンなどとの関連を考えたのも、そこに現実の関係性が結節点になっていたからだろう。


まだまだパースから学ぶべきことは多いが、これまでの用語のつまみ食い状態から、少しはつながりのとっかかりが見えてきたように思える。少しずつ考えて行きたい。



(2011/08/26 追記):上の図式の各クラスの翻訳を以下に掲げる。

1. (名辞的 類似的) 性質記号 111 → 111
2. (名辞的) 類似的 単一記号 112 → 211
3. 名辞的 指標的 単一記号 122 → 221
4. 命題的 (指標的) 単一記号 222 → 222
5. (名辞的) 類似的 法則記号 113 → 311
6. 名辞的 指標的 法則記号 123 → 321
7. 命題的 指標的 法則記号 223 → 322
8. 名辞的 象徴記号 (法則記号) 133 → 331
9. 命題的 象徴記号 (法則記号) 233 → 332
10.論証 (象徴的 法則記号) 333 → 333

各クラスの後に付けた数字は、クラスの名前の要素が、一次から三次までのどれであるかを並べた。さらに、上の三角形の配列での、数字を掲げる

111 113 133 333
  112 123 233
   122 223
    222
    ↓
111 311 331 333
  211 321 332
   221 322
    222

このようにすると、27のクラスではなく、10のクラスに分かれる意味が理解され易くなるのではないか。つまり、途中で数字が小さく(→大きく)ならないことである。例えば、最初の数字が 2であれば、 222、223、233 (→ 222、221、211)は可能だが、 211、212、221、232 (→ 223、232、233)とはならないことである。この数字の並びで、低次のカテゴリーが、高次のカテゴリーに含まれていることが示されている。

さらに、法則記号が単一記号をレプリカとしてもったり、また、解釈項が、情報を表意するために低次の類似的な記号がかかわっていたり、対象を示すために低次の指標的な記号が関わっていたりすることも、三角形の中で、左側や下側に向かってその数字が減らされて、派生していくことで理解できる。

これと同じようなことは、こちらのページ(英語)でもやっている。こちらの方は、番号の順番が、クラスの名前の項目の順番でなく、カテゴリーの第一から第三次性までの順番に従っているのか、番号の並びが逆になっているが、その趣旨を理解して読めば、色分けもしてあって、非常に読み易い。

今後、パースの十のクラスのことに言及するときには、この数字も併記するようにしたい。



(2011/10/19 追記):上の番号付けは、クラスの名称の単語の並びからナンバリングをしたのだが、パースの記号論に関する文献を読んでいると、最初の3×3の表の並びからナンバリングをするようである。私なりの思いつきのナンバリングではあったが、今後は上の赤字で修正した方式に従う。他のページでも、既にナンバリングしたものは、気がついたものから変更していく。