京都梅小路の水族館4

梅小路の水族館について、いろいろな情報を拾い出して来たので、最後に、私の見解を述べておきたい。

私は、もちろんこの水族館に反対である。反対する論点は、いくらでも思いついて、どこから書いてよいか困るほどである。それで、こちらの「写真少年漂流記」というサイトに、反対論が以下の5項目がまとめてあるので、それをお借りして議論を進めてみたい。

1) 梅小路公園ハコモノはいらない
2) 水族館は京都にふわしくない
3) 娯楽施設であり教育施設ではない
4)水族館は生物多様性を損失させる
5)動物の福祉をそこない権利を奪う

1)の「 梅小路公園ハコモノはいらない」という点については、梅小路公園を見たことがないのだが、どのような公園にしていくかは、地元の京都市民が考えることだろう。たぶん、反対派が怒っているのは、それまでにいろいろな経緯があって、公園の理念を考えて来た中で、今回の水族館の発想が、そこからあまりにも乖離していたからだろう。

2)の「水族館は京都にふわしくない」については、そのとおりだと思う。今の計画は、「なぜ京都に水族館なのか?」に対して、非常にお粗末な答えにしかなっていない。もちろん、京都にふさわしい水族館とは、どのようなものかと問うことも出来るだろうが、それは、建築を始める前に議論をするべきで、今さらという気持ちにさせる。また、専門家委員会が改善案をこれから示していくのかも知れないが、最初の案をどこまで根本的に改められるかは、悲観的に見ている。

3)の「娯楽施設であり教育施設ではない」について、この点が一番問題で、詐欺的であると思う。この水族館の理念に、エデュテインメントという言葉が出てくる。education(教育)とentertainment(娯楽)をくっつけた造語らしい。水族館に娯楽施設と教育施設の両方の要素が含まれていることは否定しないが、問題はその比率である。娯楽施設ならば、イルカのショーのようなサーカスまがいのことも、どうぞご勝手にというところだろうが、教育施設ならば、どこが教育なのかと問うことになるだろう。体験学習や環境教育などもうたってはいるが、お題目だけで中身がともなっていない。ところが、教育文化施設でもあるということで、ちゃっかりと借地料の減額も受けるらしい。残念ながら、このあたりがオリックスの企業イメージとして嫌われるのだろう。自分の土地で、独自に事業をやるのなら単なる企業活動なのだろうが、公共の部分に食い込んで、利益を得ようとすることに、欺瞞を感じるのだろう。

4)の「水族館は生物多様性を損失させる」は、水族館の運営次第だろう。これは、5)の「動物の福祉をそこない権利を奪う」にも関連する。最近の動物園・水族館が“種の保存”ということを掲げているらしいが、海の動物の場合には、実際の貢献はほとんどないのではないか。

シャチなどが死ぬと大騒ぎになるが、それ以外の動物が死ぬことは気にも留められていない。実際、海の動物が水族館に収容されることは、そこで死ぬことである。水族館で子孫を残そうにも、子供がプランクトン幼生になるものでは、飼育はほとんど不可能だろう。苦労して育てるよりは、外から購入したほうが安い。世界中から、生き物を買い漁ることは、生物資源を浪費するだけだろう。

考えるべきは、そのような生物を浪費し、生物を人工の場所に拘束するにもかかわらず、それを上回る利益があるかどうかである。その利益とは、教育文化施設であるならば、生物からなにかを学び取ることだろう。娯楽施設ならば、観客に受けることだろうか。そのような目的や利益のために生物を利用していることに自信があるのなら、動物福祉(エンリッチメント)や種の保存などを言い訳にして、取り繕う必要はないだろう。

また、地元に密着した水族館ならば、その地域の生物多様性の理解や保全に貢献はできるだろう。しかしそのためには、飼育員は、地元の自然をよく知っていなければならない。遠く海から離れた京都では、それも限られてくる。

水族館の飼育員になるような人は、生き物が好きで、生き物の面白さを知りたい、伝えたいと思っているのだろう。生物の生きている現場も知らずに、ひたすら飼育をするだけは、楽しさも半減するだろう。


既に工事は始まってしまったようだ。今さら、工事を中止することもないのだろう。この問題を調べていて、京都タワーのことが、格好のアナロジーとして思い浮かんだ。水族館も京都タワーも、反対があったにも関わらず強行された。京都タワーは1964年に開業したらしいから、46年経ったことになる。その間、私は一度も上に登ったことはない。おそらく多くの京都の人たちも似たようなものではないか。今度の水族館は、30年の計画を立てているらしい。30年後に、私は生き残っているか自信がないが、おそらく今反対している人も推進している人たちの多くも、生き残っていないだろう。その30年後に、どんな水族館として残っているのか、それとも早々と廃業しているのか、この間のいろいろな人々の発言と合わせて、興味をもって眺めて行きたい。


これまでにこのブログでは、水族館関連の記事をいろいろ書いているようだ。右上の「記事一覧」から「博物館」のカテゴリーを選んで、一覧を見てください。今回の一連の記事には、以下の記事が特に関連しています。

水族館はなにを目指すか:なぜアジとサバを区別するのか?

イルカショーはサーカス

生態展示

水族館は博物館