名古屋港水族館のシャチ

2週間ほど前の1月14日に、名古屋港水族館でシャチが死んだらしい。昨年、太地の水族館と、高額(5億円)で取引されることが話題になっていたときから、もしうまく行かなかったらどうするのだろうかと、少し心配していたのが、最悪の展開(水族館にとっても、シャチにとっても)になったようだ。

水族館の飼育をする人たちは、おそらく考えられる最善の世話をやったのだろうが、それでも生き物相手だから、うまく行かないこともあるのだろう。また、太地の水族館を、金に目がくらんだと非難するむきもあるようだが、商取引だと考えれば、そういう値段になるということなのだろう。

そんなことで、このところ一気に吹き出した、「ナミちゃんがかわいそう」との議論からは、少し距離を置きたいと思う。しかし、水族館に対する同情は、ここまでである。


以前に、このブログで、「イルカショーはサーカス」だと述べたことがある。水族館で、イルカやクジラを飼育すること自体は、悪いことだとは思わないが、なんのために飼育するのかは、水族館の姿勢として、常に問われていることだと思う。


私が名古屋港水族館に行ったのは、1990年代の初めころに行ったきりだから、シャチのプールを見たことはない。その後、シャチを飼うことが話題になったときに、「なんで今さら?」と思ったものだが、従来のショー中心から、飼育や研究を中心にするのだとのうたい文句で進められたのだったと思う。シャチ以前にも、ウミガメを研究するのだと標榜していた。しかし、ウミガメの研究が、その後飛躍的に進展したとは聞かないから、シャチも、その二の舞になるのではないかと、危惧していた。

今回、シャチが死んだことで、名古屋港水族館のホームページなどを見に行ってみると、それなりに研究というものに、こだわりはあったようだ。このページなどでは、一般公開する“トレーニング”のことを、わざわざ「ショーではありません」とことわっている。


それでも、こういう経緯をみるにつけ、名古屋港水族館の場合には、あまりにも「本音と建前」が透けてみえるようで、危なっかしさを感じる。「なぜシャチなのか?」が、名古屋城金のシャチホコと結びつけるのは洒落だとしても、そこで、金にものを言わせて、巨大なプールを作ったのも、太地からシャチを手に入れたのも、どこか正気を失っているように思える。

太地の入江に住んでいるのと、人工のプールに住むのと比べたら、どんなにプールに金がかかっていようとも、シャチにとっては太地の方が快適だと思えるだろう。飼育員にしても、太地の方が、経験豊富であるに違いない。それを、設備が整った名古屋で繁殖計画を実行するのだと言ってみたところで、説得力はないだろう。なぜ、そこまでしてシャチを飼わなければならないのか。いくら、繁殖やら研究やらのお題目を掲げてみても、結局は、客が入り金儲けが出来るからと考えているのではないか。

そもそも、名古屋の飼育員は、本当にシャチを飼いたいのだろうか。上からトップダウンに決められて、困難な仕事を押し付けられているのではないか。

名古屋港水族館のホームページを見ると、「名古屋港水族館について」ということで、以下のような格調高い文章が掲げられている。


水族館の展示生物との出会いを通じ、生命の不思議さと海の豊かさを感じてください

(前略)
 こんな時代の中で、私達は次世代を担う子供たちに、自分以外の生命が存在していることの不思議さや驚きに気付き感動し、なおかつ他者の命を実感しその存在を生き生きととらえることのできるような感受性を持ってほしいと願うものです。

 今日この虚像と実像のギャップを埋めるものは、本物の生命の飼育展示やその世代を重ねる連続性を見せようとしている水族館の役割であり、それは現代社会の中でとても大切な責務を担っていると考えています。

(中略)

 目の前で展開される本物の生き物たちだけが持つ生命の躍動感やその複雑さ多様さに自然を感じ思いを巡らせることは、命あるものたちと共に未来へと歩んで行くことでもあるはずです。

このような理想を追求するのに、なにもシャチだけにこだわる理由はないだろう。


さすがの名古屋の市長も、今すぐに別のシャチを導入することは、ためらっているようである。もしも、この後新しいシャチを導入して、また短期で死ぬようなことになれば、それこそ大問題となるだろう。本当に、そんな賭けみたいなことを続けるのだろうか?


(2011/02/02 追記):
シャチのナミちゃんの死亡原因が発表されたようである。肺炎と多量の石(約490個、計約81キロ)の誤飲ということなのだが、石は名古屋に運ばれてくる前に飲み込んでいたらしい。その石の写真を見せられると、さぞかし大変だっただろうと思うのだが、太地にいた期間(1986年に捕獲されて、2010年6月まで)にはそれで異常が出なかったのが、なぜ名古屋に来てからおかしくなったのだろうか? 名古屋の飼育環境は問題ないと主張したいのかもしれないが、まだまだ疑問は残る。