海洋のコンベアベルトの話

海洋の深層循環を示すものとしてコンベアベルトの話がよく引用されるようだ。特に、地球温暖化の話などで、北極周辺の氷が解けて、大量の淡水が流れ込んだために、この熱塩循環が停止して、逆に小氷河期が訪れたという「ヤンガードリアス - Wikipedia」にからめて、気候の大変動を警告するものとしても、取り上げられているようだ。



コンベアベルトの話を初めて聞いたときには、世界の深海がそんな風につながっていることに感動したものだったが、地球温暖化の話がからんでくると、どこか怪しいものに思えてしまう。たぶん、海洋の物理や化学をきちんとやっている人には、その説の限界もわかっているのだろうけれど、この分野の専門でもない私にとっては、なんでも地球温暖化にからめて大騒ぎをする人たちやマスコミなどが、都合のいいところだけをつまみ食いしているように感じてしまう。

そんな思いを抱いていたら、まさに私が感じたことを言ってくれているような記事があった(W. S. Broeckerのコンベアベルトはいいかげんだ

その著者たちが言っていることのすべてを理解できたわけではないのだが、淡水の収支にしろ、栄養塩の収支にしろ、コンベアベルトの説で言っているほどには、単純ではないということなのだろう。実際のところ、コンベアベルトの図も、引用する人によって、単純なものから複雑なものまである。



ヤンガードリアスのことをいう人たちは、北大西洋での高塩分の水の沈み込みを強調するのだが、南極での沈み込みが、どう関わっているのかについて、かねてより疑問に思っていた。上の記事によれば、大西洋であっても、南極からの中層水や底層水が、けっこう影響を与えているようだ。おまけに、大西洋から蒸発した雨が、パナマ地峡を越えて太平洋に降ったりすることも、淡水の収支に影響しているようだ。、


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詳細な図は、Antarctic bottom water hg.png - Wikipedia にあり。


つまりは、コンベアベルト説で考えているほどには、地球全体の水の動きは単純ではないということだろう。もちろん、このコンベアベルトが気候変動と大きく関わっていることは間違いがないのだろうけれど、こうなればああなるといえるほどには、細かいこともわかっていないということだろう。というわけで、コンベアベルトの説を、この分野の専門家でもないのに、地球環境の問題にからめて語っているような話には、眉にツバをつけて聞くことにしよう。