「動物分類学」松浦啓一著について

先に「なぜアジとサバを区別するのか?」という文章を書いたら、最近出た「動物分類学」松浦啓一著という本の冒頭の章(分類とはなにか−−「まとめること」と「わけること」)に、まさにイワシやアジやサバやサケの種類を区別することの話が書いてあった。

冒頭のところで、イワシやアジやサケの各種の写真がずらりと並べてあって、そのことによって分類学のおもしろさを伝えようと、いろいろ工夫していることは感じられるのだが、分類の実際の話になると、分類学者の語り口になって、漁師や魚屋でも知っているようなことを、やたらと難しい論理や用語で語っているような気がした。アジの“ぜいご”について、「マアジの体側には鰓の直後から尾鰭の付け根まで、大きな稜鱗が発達している」などと書かれたものを読み取るよりは、写真を見れば一目瞭然だろうにと思ってしまう。そもそも、なぜアジは“ぜいご”を持っているのだろうか? そっちの方が気になる。同じようなことは、ひれ(鰭条と書いてある)が、軟条のみからなるか、硬い棘を含むかについても、なぜそうなのかと気になるだろう。魚類学の現状について私はよく知らないが、そのようなことはきっと誰かが説明しているに違いない。

分類学へのとっかかりとして、「分けること」と「類すること」から説き始めることは、よく行われることなのだが、むしろ分類学のあり方として、知識の集大成であることを強調するべきではないか。実際のところ、この本に書かれている内容も、それに近い。自然から、情報をいかに読み取って、いかに整理するかという話になっている。

イワシやアジやサバや、さらにその下にマイワシ・カタクチイワシ・ウルメイワシ・ニシンと分けることの重要性を分類学者は強調する。しかし、「そんな風に区別をして、なんになるのか?」 との問い対して、答えになっているだろうか。イワシが何種類いて、どの特徴で区別するなどといったことは、それだけを取り上げれば、雑多な知識である。でも、そのような知識がつながっていくことによって、魚類やら海洋生態系やら生物の進化やらの見え方が違ってくることだろう。そのようなことを納得してもらうことが重要ではないだろうか。


最後に、この本の感想を手短に述べる。著者は魚類分類学者であり、魚類を実例にして、動物分類学の面白さを伝えようとされたことは、随所に覗われる。そのために、ややこしい問題はスルーされているから、表面をなぞっただけという印象もないではない。でも、全体としてみれば、あれこれ考えさせられるところもあったので、入門書としてはそれなりによく出来ているものと思われる。ついでに、Box という囲み記事が15あるのだが、本文の内容とも重複していたりして、あまり感心するものがなかった。

ということで、今後もこの本に述べられていることには、随時触れていきたい。