命名規約について

学名に関する規則を書いたものが、命名規約であり、動物に関する「国際動物命名規約」は、日本語版も出ている(日本動物分類学会:「国際動物命名規約」)。かねてより、命名規約について、自分なりに勉強したこと、疑問に思ったことを書き残しておきたいと思ってきた*1

これは、命名規約に対する動物学者の態度が、重んじるか軽んじるかの両極端であるように思えるからである。つまり、多少なりとも勉強した人は非常に重々しいものとして語るだろうし、そうでない人は「科学ではない」と軽んじることにもなるのだろう。先に紹介した「動物分類学30講」という本にも、同じような趣旨の文章(p106)が載っている。私としては、真理は中間にあると思っているのだが…。

また、ある人から聞いた話として、命名規約は法律の条文みたいなものであり、それを読むだけではなにを問題にしているのか理解できない。むしろ、実際の事件なり判例のようなものを知って、はじめて条文の意味がわかってくるとのことだった。そういう点でも、私の個人的な経験であったとしても、疑問や学習の経過を伝えることに意味があるだろう。

「動物分類学30講」の中に、「命名規約を読むことは、相続人でもないのに遺言書を読むのと同じくらいにつまらないものである。(p106)」と書かれている。最初読んだときには、なかなかうまい喩え話だと思ったのだが、よくよく考えてみると、喩えの対応関係があまり良くない。遺言書を書こうとする人にとっては、遺言書が意味を持つようにするために、なにが法律上必要な条件であるかは大問題だろう。相続人にとっても、どう読み取るかは、直接の利害にからむだろう。そのようなことに対する指針や解釈のやり方を書いたものが遺言書に関する法律なのだろう。命名規約を棒読みすることは、実際の世間のことを知らずに法律の条文を読むようなものだろう。誰も彼もが相続人になるわけではないが、遺言や相続に当たってなにが問題になるのかを知ることは、世の中の仕組みを知る上でそんなに無駄なことではないだろう。それと同様に、命名に関してなにが問題になるのかを知ることは、名前や生物のことを知るうえで無駄なことではないだろう。

ちょうど、下記の本を買った。私とは見解の違うところもあるが、分類の実際については経験豊富な方だと思える。この本も参照しながら、命名法に関する事柄を述べて行きたい。
伊藤印刷株式会社<動物学名の仕組み〜国際動物命名規約第4版の読み方〜>

*1:タイプ標本については、博物館とのかかわりで、以前に少し触れたことがある。(自然博物館における標本の意義:タイプ標本 - ebikusuの博物誌