アロタイプについて

昔、ある動物の新種を記載したときに、アロタイプを指定したのだが、そのときに「アロタイプはパラタイプの一部であるから、ホロタイプ、アロタイプ、パラタイプと並列することはおかしい。パラタイプの一部であることがわかるように指示するべきである」との指摘を受けたことがある。

実際、国際動物命名規約(ICZN)の第3版(1985)から、以下のような勧告が出ているということだった。

Recommendation 72A. Use of term "allotype". -- The term "allotype" may be used to designate among paratypes a specimen of opposite sex to the holotype. Authors are recommended to avoid using the term "allotype" for specimens other than paratypes.


その当時の私の理解では、ホロタイプ以外の標本は、すべてパラタイプであると思っていたから、あまりにも当たり前のことだと思えた。そのうえで、あえてアロタイプを指定するのは、パラタイプの中から、ホロタイプとは反対の性の個体を、特に1個体指定するものと思っていた。実際、私が扱った動物群では、性的ニ型が顕著であるから、そのようにアロタイプを指定することがごく普通に行われていた。私もそれに倣ったつもりだったのに、命名規約とはややこしいものだというのが、当時の印象だった。

この勧告の意味を実感したのは、かなり後になってからのことだった。アロタイプという用語が、必ずしもパラタイプの一部として使用されているのではない!ということを知ってからである。例えば、新種記載のときに、雄しか見つかっていなかったときに、後から雌が見つかったときに、それをご丁寧にもアロタイプとして指定するというものである。これが徹底されれば、アロタイプがない種について、後から指定してまわる人も出てくるだろう。こういう新種記載と同時に指定されていないアロタイプは、たしかにパラタイプでもなんでもない。だから、この勧告の意義は、以上のような行為に対して、アロタイプを指定できるのは、原記載者のみであることを、限定したことにもなるだろう。


ところが、ICZNの第4版では、以下のように変更されている。

Recommendation 72A. Use of term "allotype". The term "allotype" may be used to indicate a specimen of opposite sex to the holotype; an "allotype" has no name-bearing function.

ここでは、パラタイプの一部であるとの表現がなくなって、担名機能を持たないことが付け加わっている。この改変を字義通りに受け取れば、パラタイプ以外でも、また原記載者以外の人でも、アロタイプを指定してかまわないということになる。担名機能がないのは、パラタイプでも同様であるが、パラタイプの場合には、ネオタイプの選定のときに関わってくることがある。パラタイプは多少は規約の規制を受けるが、アロタイプの場合は、「本規約で規定されていない用語」として、とくに口をはさまないことになったということなのだろうか。

原記載者以外がアロタイプを指定するなどという状況は、案外知られていないのではないだろうか。先に紹介した「動物分類学30講(p100)」にしても、「動物学名の仕組み〜国際動物命名規約第4版の読み方(p223)」にしても、このあたりの事情を考慮に入れていないから、少し変な解釈になっている。

第4版への改変に当たって、どのような議論があったのかよく承知していないので、もし誤解があったら、指摘ください。