パースの三項図式によるレトリックの解釈

先の「メタファーの分類(改訂版)」で示した図式を、パースの三項図式(記号−対象−解釈内容)によって、解釈してみたい。パースの思想全体を理解しているとはとても思っていないので、今後も変更があるかも知れませんが、まずは試論として、読んでみてください。




メトニミーにしろシネクドキにしろ、本来の言い方=記号 S を、別に言い方 S’にずらせることだろう。そのときに、記号と対象との関係が、メトニミーの場合はインデックスであって、シネクドキの場合にはシンボルなのだろうから、それぞれ、隣接関係、包摂関係をずらせるような形で言い換えをすることになる。ついでに、Metaphor1 の元にある言い換えは、アイコン的なものであり、個物の性質に言及するものとなるだろう。

あるいは、対象の特性のみに注目した単項的な関係に基づく言い換え、対象と記号との間の二項的な関係(隣接関係)に基づく言い換え、対象と記号と解釈内容との三項関係に基づく言い換えとも言えるだろう。

似たような図式は、認知言語学などでもあるようだ。




この図式は前にも引用したが、山本幸一 (2001)「言語における概念化−−メトニミーの観点から(PDF)」からのものである。右側が Langacker によるもので、左側が山本氏によるものらしい。前にも述べたが、著者は意識していないようだが、右側がメトニミーの図式で、左側はシネクドキの図式になっている。つまり、右側の図では、R と T が隣接関係になっているが、左側の図ではR と T を 包含するようなクラスに言及することが必要となっている。

この図中の記号の各項目について、改めて考えてみると、それぞれ、パースの図式に、以下のように、見事に対応する。

  各項目の対応
C: Conceptualizer = Interpreter
R: Reference point = Sign
T: Target = Object
AZ: Active zone = Interpretant


メタファーについては、以下の図式のようになるだろうか。




このような三角形を横に並べる図式は、江川 晃(2005) の論文「プラグマティズム記号論の発展――パースからホフマイヤー(PDF)」を参考にさせていただいた。

図のように、通常の推論は、Interpretant が次のステップの記号となるという “記号の連鎖” として、行われている。それに対して、メタファーが成立するのは、本来の記号に対して、そのような推論の過程を飛び越えて、S1 → Sn などと結びつけることだろう。 そのようなメタファーを、メタファーとして解釈できるのは、ふたつの三角形の間で、各要素での“類似性”による対応が考えられるからだろう。例えば、「対象の性質(例えば image)」が対応するならばMetaphor1、「対象と記号との関係(例えばdiagram)」が対応するならばMetaphor2、「対象と解釈内容との関係」が対応するならばMetaphor 3となる。

このような図式も認知言語学に似たものがあって、起点領域(喩辞)から目標領域(被喩辞)への写像などとして言及される。異なる領域間の写像という意味では、同じようなことを述べているようにも思えるかも知れないが、認知言語学の図式の場合には、なんとなくその場限りの分析で、どこか表層的な記載のように感じられる。一方、この三角形の並びには、パースの思想が凝縮されて詰まっているように思える。


以上の概要(思いつき)を、さらにパースの文脈に合わせるべく、パースのことを勉強していると、パースの壮大な思想からすると、またしてもパースの思想のつまみ食いをしているのではないかと思えてくる。そのうちに、また誤解していたということになるかも知れないが、まずはこの方向で考えていくという意味で、掲げておきたい。