共感覚メタファー

昨年の年末に、京都大学霊長類研究所の研究で、「チンパンジーにも「黄色い」声!?」という記事が、新聞に載っていた。視覚情報の特定の特徴(eg. 色)と特定の音声の特徴(eg. 音の高さ)の間での対応付けが、チンパンジーでもおこなわれているということだった。異種の感覚を照合させるのは、まさに共感覚メタファー(synaesthetic metaphor)であり、前回話題にした Metaphor1 の格好の実例のように思えた。ところが、よくよく考えてみると、高い音と明るい色が対応するのは、それぞれ方向性または強弱のあるような刺激に対する対応付けであるから、むしろMetaphor2 に対応するものだと思えてきた。また、刺激の段階や強度自体が、インデックスであり、インデックス同士の対応ということで、ダイアグラムでもあるだろう。


チンパンジーのこういう研究は、これまではなんとなく敬遠してきた。それというのも、ヒトともっとも近縁なチンパンジーで、どういう部分でヒトと比較や対比をしているのか、素人目には理解しにくかったからだろう。メタファーの分類のことを考えていなかったら、この記事にも特に注目することもなかっただろう。

また、共感覚メタファーというものも、メタファーのことを学び始めた3年くらい前に知った。なにか感覚の生理学のようなことを、メタファーとの関連で、多くの文化系の研究者たちが研究していることに驚いたのを覚えている。辞書の用例を分析したり、ちょっとした実験をしたりしたような論文が、ネットでも大量に読めるから、“流行り”なんだろうと思ったりもした。

そんなことで、なんとなく遠ざけていたものが、メタファーの分類を介して、つながって来たことになる。


上に述べたように、「黄色い声」で、視覚と聴覚とを「黄色い」という感覚で結びつけたと解せば、Metaphor1 だろうし、方向性のある感覚同士を結びつけたと解せば、Metaphor2 だろう。さらに、「黄色い」という言葉に、なんらかの象徴的意味を込めれば、Metaphor3 となるだろう。

だから、Metaphor1-3 は、どうにでも解釈されるものだと思われるかも知れないが、むしろ、そのような区分があるからこそ、それぞれのメタファーの背景にある類似性を読み取ることが可能となるのだろう。

上のチンパンジーの研究では、言語や文化が関与していないらしいから、Metaphor3ではないことになる。

音の高さと明るさの間の共感覚的知覚は、言語や文化との相互作用を必要とせず、脳の神経間の結合によってもたらされるものであり、さらに、その起源がヒトとチンパンジーが進化の道を別った500〜600万年前にまで遡る可能性が示唆された。

ところが、Metaphor1-2 を解する動物は、チンパンジーならずともいるような気がする。例えば、左右性の認識をする動物では、いくつかの感覚の複合のようなことが起こっているように思える。そうすると、Metaphor1-2 は原始形質であり、Metaphor3が派生形質として、後から付け加わったのだろう。それならば、知りたいことは、Metaphor1-2をヒトとチンパンジーが共有していることではなくて、Metaphor3 がどこで生じたかである。

チンパンジーは、本当にMetaphor3を解さないのだろうか?