ルリタテハ

以下のチョウは、見た瞬間に、これまでに見たことのない種類で、これでチョウが一種増えるものと思ったものだが、フワフワと飛んでなかなか写真を撮らせてくれなかった。



(2011/10/10 撮影)

写真では、背面の青い線があまり写っていなくて、腹面の汚い模様(枯葉にカモフラージュしているらしい)がおもに写っているが、どちらの模様も印象的なものだった。それでいつもの岐阜大学のページで調べてみると、ルリタテハらしい。

他のサイトもいろいろ調べてみると、山の中ではサルトリイバラを食草にして、町の中ではホトトギスを食草にするらしい。我が家のある住宅街の背後に山はないこともないが、我が家の庭にも少しばかりのホトトギスが生えているし、周辺の家の庭にもけっこう植わっているように思える。私が見ていた時には、スカシユリタカサゴユリのところによくとまっていたから、ユリ科の植物が好きなのかと思ったが、調べてみて納得である。


以上、私にとってちょっと珍しい種類を見つけましたということで終わりなのだが、学名についても気になったので、あれこれ調べたことを書き留めておきたい。その学名は、Kaniska canace (Linnaeus, 1763) ということである。

属名はいかにもロシア人の名前のように思ったのだが、調べてみると2世紀頃のインドのカニシカ王ということで、仏教を保護奨励した人らしい。そういえば、世界史か仏教の歴史を勉強する時に聞いたような気もする。

種小名の canace の方は、あまり自信はないが、ギリシャ神話の風の神である Aeolus の娘が、Canace らしい。フワフワと飛んでいるところが、風と関係があるのだろうか。この語源を調べようとすると、子供を命名するためのサイトがヒットする。女の子の名前として、それほど多くはないが使われるらしい。

ついでに、Wikipedia のルリタテハの記述には、本土亜種である Kaniska canace nojaponicum (Von Siebold, 1824) にも触れている。no-japonicum というのは、「水色の帯模様が緩やかな曲線を描き、文字通り「ノ」の字となることに由来する」らしい。この命名者は有名なシーボルトであり、日本から持ち帰った標本に基づくものなのだろう。

命名者ということでは、基亜種はリンネの命名であるが、カッコに入っているから、リンネ自身は別の属名で命名したことになる。これも Wikispecies でたどると、Papilio canace Linnaeus, 1763 として命名されたらしい。Papilio はアゲハチョウである。

そうすると、次は属名である。Kaniska Moore, 1899とある。この Moore というのは、Frederic Moore (1830-1907)で、English entomologist (Lepidoptera) ということらしい。この頃の英国人にとっては、インドは身近なものだったのだろう。また、この属に所属するのは1種だけである。だから、種小名と頭の音を合わせたに違いない。

ルリタテハという種自体は、分布範囲が東アジアから南アジアにわたっていて、その中で15の亜種命名されている。monotypic genus であり、polytypic species ということになる。

たった一個体を見て、名前を調べるだけでもう満腹である。次は、また別の個体や幼虫などにも出会ってみたいものだ。