左と右3:左ヒラメに右カレイ

「左ヒラメに右カレイ」という言葉がある。この言葉自体は、左とヒラメで冒頭の音が対応しているから、覚えやすいものだろう。ところが、いざ口にしたときに、ヒラメの何が左に、カレイの何が右に対応しているのだろうか。さらに、実物を前にしたときに、この言葉で自信をもって識別できるだろうか。

例によって、私自身の勘の悪さのせいもあって、わかっている人には当たり前のことかも知れないのだが、私なりに整理したことを書いておきたい。


例えば、Google で検索してみると、トップに岡山大学歯学部のページが出てくる。そこでは、頭を左に向けたヒラメと、右に向けたカレイの写真が掲げられている。ところが、実際に魚を前にすればわかることだが、ヒラメであっても、頭を右に向けて置くことだって出来る。もちろん、そのページには説明があって、「腹を手前に置いて左に顔があるのがヒラメ,右にあるのがカレイ」ということが書いてある。しかし、そのためには、腹を区別しなければならない。もちろん、魚のことを少しでも知っていれば、カレイやヒラメの腹側くらいは区別がつくのだろうが。

検索の2番目に来る Wikipedia のヒラメの項目では、以下のようになっている。

俗に「左ヒラメに右カレイ」と言われるように、両目とも頭部の左側半分に偏って付いているのが特徴である(頭部の左側に目を持つカレイも存在するので、頭部の左側にあるもの全てがヒラメというわけではない)。海底で両目のある体の左側を上に向けて生活している。カレイ類に比べて口が大きく、歯も1つ1つが大きく鋭い。

両目が左側半分に偏って付いていることがわかるためには、ヒラメの体の左右がわからなければならない。それで考えてみれば、先ほどの腹側の反対が背側で、背びれと腹びれが上下に並んでいるんだなとわかれば、背腹の軸と前後の軸とを思い浮かべて、そこではじめて、ヒラメの茶色く見えている部分が体の左側だったと、ハタとわかる。

歯の形態や口の大きさについては、さすがに先の岡山大学歯学部のページには、骨格標本の写真が載っている。これは、食べるエサとも関連していて、ヒラメはイワシやアジなどの魚食性で、カレイはゴカイなどの底生生物を主に食べるらしい。おそらく、上のものを食べるか下のものを食べるかで、顎の構造なども違っているのだろう。


また、最近よく話題になるチリメンモンスターでも、カレイやヒラメの幼体が混じっているようで、こちらのページのカレイの写真などは、左右対称だった目が右側へ動いていくのがわかる。


結局のところ、普通の脊椎動物が、背腹の軸が上下に対応するのに対して、ヒラメやカレイは、左右の軸が上下になっているのだろう。だから、エサを摂るときに上下に動いているように見えるのは、ヒラメやカレイにとっては、左右に動いているのである。もちろんヒトにしても、本来ならば前後(頭から尾まで)の軸が、上下になったものだから、その代わりに腹を前にして動いている。

いやいや、前後だって、定まっていない。頭が前だと言いつつ、動く方向が前だと言うのなら、横ずさりするカニの場合は? あるいは、口のある方、目のある方など、なにかを基準にしたとしても、動物はそんなことを気にせずに方向性を変更させているのだろう。

そうすると上下だけが、地球の中心に向かって、絶対的に定まっているということか。これも、宇宙全体の中で、なぜ北極が上になっているのか、私にはわからないのだが、そんな空間認識は古くから考えられて来たに違いない。


一番最初に、左右のことで、メタファーを持ち出したことへ立ち返るならば、このような空間認識に、ヒトの体の身体感覚のようなものが大きく作用しているだろうことを認めるにヤブサカでない。それでも、一応サイエンスを学んだ人間としては、そのような認識に整合性をつけたり、統一的な説明をすることが、自然の構造を知ることにつながるものと思っている。知りたいことは、身体にしろレトリックにしろ、ヒトの自然認識に対して、どれだけの割合や適用範囲を占めているかである。


右と左について書かれた本は、いっぱいあるに違いない。私が持っている本を思い浮かべても、関連するものが何冊もありそうだ。ここまで考えてきたことを踏まえて、追々と勉強して行きたい。