「象は鼻が長い」とメトニミー2

「象は鼻が長い」のような「XはYがZである」という構文が、メトニミーやシネクドキにも関連することを知ったのは、以下の論文からだった。

謝豊地 正枝*1 国立台湾大学・日本語日本文学系教授「主な比喩表現の表示する多義性と意味構造に対する比較研究(PDF)」台湾政府文部省国家科学委員会へ提出された研究賞受賞論文

この論文は、認知言語学の諸問題が丁寧に説明してあって、私にとっては、いろいろなことを学ぶのに大いに役に立った。その15ページ、「3章 シネクドキ表現を表すイメージスキーマの試作」の中に、「「X」と「Y」とが形成する意味関係に対する考察」という節があって、そこに、以下のような例文が挙げられている。

まず、主な「XはYが+述語形容詞」構文を示し、それぞれの「構文」中の「Xは」と「Yが」とが形成する意味的な関係を併記する。

(20)花は桜がいい。【再掲】 【「全体と類」、或いは「集合とメンバー」】
(21)林さんは髪が長い。【再掲】 【全体と部分(固体)】
(22)日本は温泉が多い。 【所在地点と状態の特徴】
(23)A先生は本が少ない。 【所有者と所有物】
(24)伊藤さんは息子さんが賢い。 【主体と帰属者(親族)】
(25)加藤さんは性格が優しい。 【主体と属性(性格)】
(26)佐藤さんは頭がいい。 【主体と属性(能力―形容詞句が慣用的表現を示すもの)】
(27)テーブルは角が丸い。 【主体と属性(状態)】
(28)独り者は夜が寂しい。 【主体と心的状態】
(29)今日は風が強い。 【主体と属性(発話主体が知覚できるもの)】
(30)手術は後が痛い。 【原因・前提と結果】

において、「X」と「Y」とが示す「主体と属性」の関係にも、さまざまな種類のものがあることが分かる。(20)文例以外の構文における「X」「Y」とは「全体―結果」で表される意味関係にある。そして、この意味関係は「包摂関係」を示していることが見出される。

この例文を最初に見た印象は、最初の「花は桜がいい」以外は、すべてメトニミーに関する隣接関係ではないかということだった。つまり、(21)-(26)のように特定の主体が明示されている場合には、その主体と関係するものが「Yが」にくるのだろう。

(27)以下は少し複雑で、例えば、「テーブルは角が丸い」というのが、特定のテーブルのことなのか、あらゆるテーブルのことなのかが問われることになるだろう。もちろん、角があるテーブルも存在するから、たぶん目の前のテーブルを指して、「そのテーブルは」ということで話しているものと、普通は判断するのだろう。あらゆるテーブルのこと、あらゆる独り者のこと、あらゆる手術のことを話しているのか、特定のものを話しているのかは、文脈によって判断することになるのだろう。

*1:当初、謝の意味を、日本人の豊地正枝教授に感謝しているものと解釈したので、台湾の人が書いたのかと思ったのだが、謝さんと結婚されて姓が変わったらしい。豊地正枝さんの名前で本(「XはYが+述語形容詞」構文の認知論的意味分析)も出しておられるようだ。