和歌山市立博物館−特別展「エコロジーの先駆者 南方熊楠の世界」
先の土曜日(10月24日)に、和歌山市立博物館で開かれている特別展「エコロジーの先駆者 南方熊楠の世界」*1 *2に行って来た。当日は「熊楠の神社合祀反対運動とエコロジー」という特別講演会もあったので、それも聴講することが出来た。
展示全般の感想は、非常に多くの資料が集められていて、充実したものだった。白浜町の南方熊楠記念館や、田辺市の南方熊楠顕彰館などへも行ったことがあるが、それらが一堂に集約されたという感じだった。
そして、和歌山市は熊楠の生まれたところであり、彼を育んだバックグラウンドを説明するうえで、この博物館所蔵の和歌山市に関する資料も、有効なものになっていた。
観覧者は、年配の人が多かったが、けっこう熱心に覗き込んでいた。熊楠ファンという人も多いようだったし、郷土の身近な偉人として意識されてもいるのだろう。熊楠に関連する人物や地名などは、かなり特殊なものに思うのだが、どこかにつながりのある事柄として話している人も結構いた。
まさに、和歌山市はこのような展示会をやるのにふさわしい都市なのだろう。
講演についても、講演者は歴史家ということで、非常に広範な知識を駆使されて、なかなかの熱弁だった。予定時間の1時間半を越えて、2時間ほどの話になった。
講演内容については、熊楠にとっての合祀反対運動を、“総合的”にとらえることを目指しておられるようで、全集などに掲載されているような文章を単に参照するだけではなくて、多くの具体的な人名や地名に触れながら、時代的背景も交えつつ非常に丁寧に説明されていて、納得のいくことが多かった。
あえて異論をいうならば、講演にしても特別展にしても、エコロジーという言葉がキーワードになっているのだが、現在的な意味でのエコロジーという単語を、熊楠に適用するのには無理があるように思う。講演者も述べていたが、環境保護の思想や運動としてのエコロジーと学問としての「生態学」とは区別するべきなのだが、熊楠には、さらにそのような枠組みにとらわれない独自性や総合性があったに違いない。熊楠の場合には、外国生活の経験があり、西洋学問との独自の接点を持っていたわけだが、同時に、熊野の自然に触れる中で、独自の自然観や学問を構築していたのだろう。そんな彼の学問的背景があったうえで、Ecology という単語をどこかで知って、それを合祀反対運動の論理として利用したのだろう。Ecology という単語を、日本で誰が一番最初に紹介したかどうかは、大した問題ではない。たしかに、当時の生態学の水準からすれば、卓越した自然観を持っていたのだろうが、彼自身は、自分のことを生態学者だとは思っていなかっただろう。
神社合祀反対運動については、どちらかというと社会運動として受け取ってきたので、その背景にある熊楠の自然観ついては、あまり深く考えたことがなかった。考え始めるいいきっかけを与えてもらった。
なお、展示の解説書は、800円で、超お買得だと思う。「南方熊楠アルバム」という本もあるが、そこに載っていない写真も非常に多いし、カラーで美しい。