橋下知事に図書館のことを訊ねてみよう


橋下知事が「図書館以外の府立施設は不要」と言ったことで、そのような横暴から博物館を守らなければならないと思って、このブログでも何度も取り上げて来た。しかし、考えてみれば、逆に「なぜ図書館は必要なのか?」と問うてみるべきだった。きっと、橋下知事なりの図書館の必要性を考えているのだろう。まずは、それを聞いてみるべきだった。

博物館に比べると利用者数も一桁多いし、本も無料で貸し出しするし、学習のスペースを提供するなど、知事なりに図書館に対するイメージ(博物館とは違ったイメージ)を持っているのだろう。それに「(図書館は)知のセーフティネット」だとか言ったらしい。

その一方で、国際児童文学館大阪府立労働センターなどでも図書館の機能を持っているのだが、そちらの方への対応は冷たいらしい。これらの図書館は、あまりにも専門化し過ぎていて、一般の人には敷居が高いのだろうか。

ところが、大阪府改革プロジェクトチームの文章には、以下のようなことが書いてある。

  • 広域図書館として市町村図書館、大学図書館と連携を強化し、一般図書から専門書までのフルセットのサービス提供から脱却するなど、府立図書館としてのあり方を再整理する必要
  • 専門性・教養性(文化、芸術、学術、歴史、ビジネス、児童、女性など)の高い蔵書の提供に特化するなどして蔵書の整理を行い、国際児童文学館やドーンセンター、文化情報センターなどの書籍を集約化

たしかに、大阪府のような市町村図書館などがそれなりに整備されて来ているところでは、府立図書館として、どのような役割を担うべきか考えるべきだろう。でも、このような方向性を進めることが、橋下知事が思っている図書館のイメージと一致するのだろうか?

実は、プロジェクトチームの考えていることもまた机上の空論である。専門性の高い蔵書やコレクションを充実・維持するためには、その分野に理解があるスタッフの存在が不可欠で、今ある専門の施設を離れては成り立たないものだろう。そのうえで、府立図書館の役割を考えるとすれば、専門図書館と連携しつつ、全体を統括するようなアーカイブスとしての機能や情報センターとしての機能を果たすことだろうか。大学で言えば、中央図書館と各学部や教室の専門の図書館の関係のようなものだろう。ところがそのようなことは、プロジェクトチームが目指しているであろう経済性や効率性や高い利用率などとはかけ離れたものになるだろう。

おおよそ誰が読むのかもわからない何十年も前の本を保存したり、古くなった雑誌のバックナンバーを保存することの意味が理解できるだろうか? そのような一見無駄とも思えるようなことをやって、真に役に立つ専門性の高い図書館になれるのである。ベストセラーの本がタダで借りれたり、快適な閲覧スペースをイメージしている人には、無用の機能としか思えないだろう。私にとっては、国際児童文学館大阪府立労働センターなどの図書館は、私の興味から離れているので、今後も行くことはありえないだろうが、でも、そのコレクションの価値は充分に理解できる。それを、現場が嫌がっているのに、機械的に合併させたからといって、うまく行くとはとても思えない。

今回の橋下知事による大騒ぎで、橋下知事が現場の実情を知らないことは、必ずしも非難されることでもないだろう。非難されるべきは、自分が知っている狭い経験や価値観で、ものごとを判断することである。同じことは、橋下知事の尻馬に乗っているプロジェクトチームにも言えるだろう。

図書館にしろ博物館にしろ、自分が見ている以外のところで、重要な役割が果たされていることだろう。普通の大人は、そのような自分が知らない世界で行われていることに敬意を払うものである。

橋下知事に、「なぜ図書館が必要なのか?」訊いてみようではないか。