雌雄同体にまつわる用語
このところ、雌雄同体について考えていたので、雌雄同体にまつわる用語をまとめておきたい。
まず、雌雄同体という言葉はよく知られているだろう。雄と雌の器官が同じ個体の中に現れることだとすると、話は簡単なのだが、生物界全体を考えるとなると、話が複雑になって来る。
動物の場合ならば、卵巣と精巣が同時に存在する同時的雌雄同体(simultaneous hermaphroditism)と、一生の間に性が入れ替わる隣接的雌雄同体(sequential hermaphroditism)とに分けられる。後者は性転換のことであり、さらに雄性先熟(protandry)と雌性先熟(protogyny)に分けられる。
ところが、植物の場合は話がぐっと複雑になる。大部分の高等植物は雌雄同体なのだが、花に注目すると、おしべとめしべが同時にある両性花(hermaphrodite flower, bisexual flower)と、雄花と雌花が別々の単性花(unisexual flower)に分けられ、後者の場合には、さらに同じ株に雄花と雌花が生じるかどうかで、雌雄同株(monoecism)と雌雄異株(dioecism)とに分けられることになる。
植物の話の複雑さは、動物においても群体の生物を考えて見れば、同様のことが当てはまる。群体として雌雄同体か雌雄異体か、また個虫に注目したとき、単性個虫か両性個虫かと考えることが出来る。この点から見ると、植物というもの、造卵器や造精器が体中に散らばっているということで、群体の生物と見なせるかもしれない。
以上の話は、“正常”な生物で見られる話で、“異常”として現れるものがあり、それが間性(intersex)であったり、雌雄モザイク(gynandromorph)であったりする。もちろん、一定割合で必ず出現したりすると、なにが異常かということにもなる。人間のような複雑な生物の場合には、どのように雄と雌の特徴が出現するかで、性同一性障害ということになるのだろう。動物の雌雄同体を調べるつもりで、hermaphrodit* などとデータベースの検索をかけていると、ヒトの例がいっぱい引っかかってくる。
また、原生生物やバクテリアの性まで考えると、「性とはなにか」ということになるのだろうが、今はそこまで勉強するつもりはない。
英語をいっぱい並べたので、少し語源のことにも触れておきたい。
dioecy, dioecious という言葉は、動物でも雌雄異体の意味でよく使われる。これはmonoecy との対語となっている。では、-oecy という部分は、辞書によればhouse の意味で、たぶんエコロジー・エコノミーのエコ(=オイコス)と同じだろう。つまり、性がふたつの家(花)に納まっているか、ひとつに納まっているかの意味だろう。このような対応を踏まえるなら、hermaphroditism に対するものは、gonochorism を使うべきだと読んだことがある。-chori という部分は、「分かれた・分離した」という意味があるようだから、性や生殖質が分離したという意味だろう。
hermaphroditism がギリシア神話のヘルメスと美の神のアフロディテにちなんだことは有名な話ではあるが、そのふたりを両親とした子供にヘルマプロディートスがいたことは、この文章を書くためにWikipedia を読むまで、知らなかった。よく写真として掲げられる両性具有のヘルマプロディートス像というのは、ギリシア神話の中で実際に登場する神だったようだ。
(この項続く)