生物に対する「なぜ」

このところ、生物に対する「なぜ」ということについて考えていた。それで、『生き物をめぐる4つの「なぜ」』という本を改めて読み返している。この本が述べている4つの「なぜ」という設定は、ノーベル賞受賞の行動学者ティンバーゲンによる four questions によるものである。ところが、どういうわけか、4つの問いが、4つの「なぜ」になってしまっている。いずれにしても、重要な問題を論じているものと期待して買ったのに、そして、著者自身もかなり意欲的に書いているように見えるのに、案外、期待外れだったという本だ。なぜ期待外れだったのか、その理由のひとつは、著者の言葉遣いが、私自身の言葉の認識とどこかずれていたからのようだ。

著者によれば、生物の不思議な特徴を説明するためには、4つの「なぜ」に答えなければならない、とティンバーゲンは考えたらしい。つまり、それがどのような仕組みであり(至近要因)、どんな機能をもっていて(究極要因)、生物の成長に従いどう獲得され(発達要因)、どんな進化を経てきたのか(系統進化要因)という4つの要因であり、これら4つの問いにそれぞれ異なる解答を用意しなければならないということらしい。

ティンバーゲンの元の論文を読んではいないので、ふーん、そんなものなのかと思ったのだが、このように4つの要因を並列することには、なにか不思議な感じがした。至近要因(proximate factor) と究極要因(ultimate factor)を分けることは、進化に関係する文章で何度も見たことはある。Mayr の本にもよく出てきたの覚えている。究極要因が、進化や歴史に関する説明に関わるものであるとするなら、それに対立するものとして、系統進化要因が並べられていることに、なにか変な感じがした。あるいは、至近要因は How に関する問いに答えるものであり、究極要因は Why に関する問いに答えるものだと思っていたらから、それが4つの「なぜ」になってしまうことにも違和感を感じた。


今回、Wikipedia の Tinbergen's four questions の項目を見てみると、以下のようになっている。

Evolutionary (ultimate) explanations
 1 Function (adaptation)
 2 Phylogeny
Proximate explanations
 3 Causation
 4 Development (ontogeny)

つまり、究極要因を説明するものとして、1機能(適応)的な説明、2系統発生的な説明があり、至近要因を説明するものとして、3因果論的な説明、4発達(個体発生)的な説明が挙げられている。なんのことはない、Tinbergen の言っているのは、私の理解していたとおりであり、著者の長谷川眞理子氏は、1番だけを究極要因、3番だけを至近要因として、狭く当てはめていたことになる。わざわざこのような用法を用いていることには、なにか意図があるのかも知れないが、Tinbergen's four questions の紹介というにしては、誤解を招くものだろう。


これから、生物学における「なぜ」について、いろいろ考えてみたい。